「運用3号」の謎

2010年3月10日分から、試験的に書いています。
本家(2009年1月5日〜)は、こちらです。
http://stsimon.paslog.jp/


鉄人28号」でも「青の6号」でもありません、「運用3号」です。
私の大好きな、年金のお話です。説明が長くなります(笑)。
去年(2010年)大晦日朝日新聞朝刊一面トップ記事の隣にこんな記事が載
りました。「年金切り替え漏れ救済」「夫が退社の専業主婦 2年分納付で」
記事は淡々と書かれていました。
これが、実は大変な内容だったのです。


さて、戸松遥さんも加入している国民年金。と言うか、スフィアでは19歳
寿美菜子さん以外は全員加入しているハズです。
日本の年金制度については「戸松遥さんと国民年金の話」(2010-02-19)で
少し書いていますが、おさらいしておきます。


20歳から60歳までの日本に住んでいる全ての人(外国人も含む)は、年金に
加入する義務があります。任意ではなく強制です。ここ重要。
厚生年金や共済年金に加入しているのが会社員、公務員。
→第2号被保険者(保険料は給与から天引きされる)
第2号被保険者に扶養されている配偶者で、年収130万円未満の人。
→第3号被保険者(国民年金保険料を払った扱いになる)
上記以外の全ての人(自営業や学生など)
→第1号被保険者(国民年金保険料を払う。免除や猶予制度あり)
つまり、この3種類しかありません。
戸松遥さんやスフィアは、国民年金で第1号被保険者です。


今回、問題になったのは第3号被保険者です。
夫が第2号被保険者なのですが、夫が会社を辞めて自営になったとします。
その場合、夫は第1号被保険者に変わります。そうすると役所に「変更届け」
を出す必要があります。これは大体の人はやります。お知らせも来ますし。
そして、妻も3号ではなく1号になります。何故なら第3号被保険者と言うの
は、第2号被保険者の配偶者だからです。夫が第2号でなくなった以上、妻も
第3号ではなくなるのです。自動的に第1号になるしかないのです。
その場合は、夫と同様に役所に「変更届け」を出す必要があります。
そして、国民年金保険料を納付する事になります。


ところが、第3号から第1号への変更届けを出さなくても罰則はありません。
もちろん、何回かお知らせは行きますが「忘れた」とか「面倒くさい」と
の理由で行かない人がかなりいるのです。
日本年金機構(2010年1月以前は、社会保険庁)によると、この問題が発覚
したのは、2010年になってからと主張しています。
しかし、そんな事は現場の声をちゃんと聞けば、とっくの昔に分かった事
です。現場の声を聞かない役所上層部の無能ぶりが露呈してます。


具体的な例で説明します。
10年前に夫が第2号から第1号に変わったけど、妻が3号から1号への変更届
けを出していないのが発覚したとします。
妻の記録は10年間第3号でした。つまり保険料は払った扱いでした。
ところが発覚したので、法律通りに記録の訂正を行います。
すると、10年間第1号で未納扱いになります。今から国民年金保険料を払う
としても、時効の問題があって過去2年分しか納付出来ません。
8年分は未納期間となり、将来の年金受給資格に影響があり受給額も減り
ます。そんな人が数十万人もいます。さぁ、大変どうしましょう。
という問題です。


そこで、日本年金機構が考えたのが「法律通りに運用すると不利益を受け
る人が多くて、問題がある」ので「未納となる期間は第3号だった事にして
あげるので過去2年分だけ払って下さい」というものです。
これが、最初の新聞の見出しの意味です。
一見、良心的な救済処理に見えます。
駄菓子菓子、そうでしょうか。
じゃあ、本来真面目に10年前に第3号→第1号の届けを出して、国民年金
険料を払った人の立場はどうなります?
真面目な人がバカを見る事になるのです。
「不利益」はルール通りにしなかった人の責任では?
日本年金機構内部でも「真面目な納付者に説明出来ない」とか「ルールを
守らない人を救済するのはモラルの崩壊になる」との批判があるのですが
上層部は「故意に変更届けを出さなかった悪質な人は少数」とか意味不明
の理屈で押し切りました。


思うに、法律通りに運用すると、また多くの批判を受けるので苦情の来な
い姑息な方法を選んだのだと思います。「利益」を受ける人は文句は言わ
ないし、ちゃんと納付している人自身に不利益はないように見えます。
実際は、納付している人のお金が未納者に使われるんですけどね。
法律を解釈でネジ曲げるのは、法治国家にあるまじき行為ですよ。
ちゃんとそういう法律を作ってやるべきだけど、問題の詳細が明らかにな
ると、大騒ぎになる事を恐れたんだと思います。
せっかく看板を「日本年金機構」に変えたのに、実態は以前の「社会保険
庁」と変わらない事もバレてしまいますからね。
日本年金機構」は非公務員型の行政法人とか言ってますが、厚生労働省
の管轄下にあるんですから実態は同じです。
上記の問題を、法律改正でなく「運用」で処理するので「運用3号」と言う
訳です。この言葉は日本年金機構の内部文書に使われている用語です。
ちょっと、事情通を気取ってみました(笑)。


実は、ここまでは1月の最初に書いていました。年金問題、大好きなんで。
ところが、2月になってから、事態に進展がありました。
2月1日の読売新聞の記事。
「未納専業主婦100万人」「夫退職時など年金切り替えず」のタイトルです。
この問題の説明と「きちんと保険料を払った人が不公平感を抱きかねず、
議論を呼びそうだ」と書いています。
さらに、2月2日の朝日新聞の社説は強烈でした。
「主婦の年金 この不公平は許されない」とのタイトルです。
もっと公正な処理方法があるとした上で「今からでも遅くない。このよう
な不公平は措置は、やめるべきだ」と書いています。
社説は新聞社の公式見解なので、朝日は「運用3号」を批判する方針を明確
にしました。
さらに、保険料を払っていなのに払った事にする「第3号制度」批判まで行っ
ています。これは、年金制度自体への批判を含んでいます。
個人的には、「運用3号」は絶対に中止すべきだと思います。
日本年金機構の思惑と違って、問題は大きくなりそうです。


「不利益」を受ける人が多くても、法律は正しく運用するべきでしょう。