あやひーの誕生日に捧げる「TARI TARI」論

2010年3月10日分から、試験的に書いています。
本家(2009年1月5日〜)は、こちらです。
http://stsimon.paslog.jp/


高垣彩陽さん、27歳の誕生日おめでとうございます。
今日という日が、あやひーの希望が叶う出発の日になる事を願っています。
お祝いの一番乗りかも知れません(笑)。


さて、先日放送が終了したアニメ「TARI TARI」が非常に面白かったです。
一般的には、高校3年生5人組が合唱部を作り、最後の文化祭を単独で成功
させた青春ストーリーと言えるでしょう。
個々のエピソードも、バランス良く丁寧に描かれています。
この種のアニメでありがちな「親の不自然な不在」もありません。
むしろ、親との関係に非常にリアリィティーがあるのが素晴らしいです。
こういう丁寧な作業をするアニメは、ほとんどないのが現実です。
実写作品にしても違和感がないです。
とベタ褒めしてみましたが、瑕疵(かし)つまり小さな欠点もあります。


まずは、紗羽の騎手志望。
騎手の募集要項を見て、初めて体重制限に気付いたみたいな描写は疑問です。
騎手志望者なら最初に考えるべき重要な問題です。
あの描写では、紗羽の本気度が怪しくなってしまいます。
私は毎年JRA(日本中央競馬会)の新人騎手のインタビューを読んだりする
のですが、志望理由で一番多いのが「体が小さいから」なんですよ。
「馬が好き」というのは少ないです。馬を鞭で叩く職業ですからね。
紗羽の体格や、サブレへの接し方からは乗馬の道に進めば、と思います。
紗羽が騎手に拘る理由が全く分かりません。競馬が好きという描写もないし。
海外でライセンスを取って、日本で騎手になるのもほぼ不可能です。
体重の問題はついて回るし、それより日本の競馬界は非常に保守的です。
今まで、紗羽のパターンで騎手になれたのは男性騎手一人だけです。
その人の親兄弟がJRAの有名騎手だったので、有利に作用したと言われ
ています。コネのない、しかも女性の紗羽では無理でしょう。
だから、あのラストは少々辛い気持ちになります。紗羽、いい娘さんだし。


理事長の謎。
白浜坂高校は、かつて合唱コンクール優勝の実績はあるし、有名バドミントン
選手も輩出しているようです。
つまり控え目に言っても、私立のそれなりの名門校でしょう。現在の生徒の
レベルも高そうです。音楽のプロを目指す生徒もいるようだし。
そんな高校をマンションにする理由って何でしょうか?
金を儲けた人間が次に求めるのは「社会的な名誉」です。
「私立高校理事長」というのは、かなり高いステータスですよ。
少なくとも、マンションのオーナーよりはね(笑)。
理事長が「社会的な名誉」を捨ててまで金を得ようとするのは、よほど経済
的に追い詰められているんでしょう。どこぞの製紙会社のバカ2代目みたいに
カジノで大負けでもしたんでしょうか。
そして私立とは言え、政府から補助金を貰っている教育機関でもある学校法人
を個人商店みたいに簡単に店じまい出来るのか非常に疑問です。
少なくとも、理事長の私物ではないのです。
それに、生徒、父兄、OBから反対の声が出ないのも不自然です。
普通なら、反対運動が盛り上がるパターンですよ(笑)。


目についた問題点は上記の二つなんですが他にもあるかも。
これらがメインストーリーと思っちゃうと作品評価に微妙に影響するかも
知れませんが、私にはメインストーリーとは思えませんので大した問題では
ありません。商売的な理由でストーリーに派手な装飾を施したけど、ちょっと
手を抜いてしまった感じでしょうか。酷い例えだな(笑)。
さて、私の思うこの作品のテーマはカッコ良く一言では言い難いです。
「輝く才能への羨望と反発から、人はいかに解放されるのか?」とか
「人は身近にいる天才とどう向き合うべきか?」みたいな感じです。
もちろん、和奏の亡き母まひるさんが問題の人です。
まひるさんは、「めぞん一刻」における「惣一郎さん」(犬じゃない方)に匹敵
する「無敵の死者」です。コメンタリーでも「完璧超人」って言ってましたね。
白浜坂高校合唱部が全国大会で優勝した時の曲「心の旋律」は、まひるさんが
ほとんど一人で作ったし、コンドルクインズ唯一のヒット曲「Amigo! Amigo!」
も、ほとんどまひるさんの作曲でした。
そう、まひるさんは天真爛漫なな天才でした。
そして「あなたにも出来るわよ」みたいな無邪気な発言が、どれだけ周りの人を
落ち込ませるかにも、全く無頓着な人でした。ある意味タチが悪いです。
結論から言えば「TARI TARI」は、このまひるさんの強力な磁場に捉われてしまった
二人の人間の魂の救済の物語であると、私には思えるのです。
二人とは、もちろん和奏と教頭先生(高倉直子)です。
最初は、まひるさんがらみの話は、バロック音楽通奏低音のように全体を陰で
支える存在かと思いました。
しかし、物語が進むにつれて、どう考えてもこちらが本筋だと思わざるを得なく
なりました。この作品は、見かけよりずっと奥が深いのです。


スタートから物語の骨格を作ったのは来夏です。
彼女の行動力は、普通のアニメなら完全にヒロインなのですが何しろこれは
TARI TARI」なのです。それほど単純ではありません。
本当の物語が姿を現すのは第6話からです。
和奏が亡き母まひると和解するというターニングポイントの回です。
しかし、疑問なのはなぜ和奏が音楽を捨てようとしていたかです。
幼い頃から音楽と共に育ち、音楽もまひるの事も大好きな筈です。
ところが、高校受験の頃にはまひるに対してイライラした態度を取る事が多く
なっていました。
和奏にとって音楽とは、いつしか楽しむものではなく、まひるに追い付くため
の手段になっていたと思います。身近な天才への憧れと劣等感の裏返しとして
の反発という行動になっていたと思われます。
そして、入学後の2年間はまひるさんの才能を思い知る時間でもあったのです。
まひるさんには追いつけないと悟った和奏は、音楽を捨てる決心をしたと考え
ると辻褄が合います。
第1話で和奏が、合唱部に誘う来夏に言った「あなたの遊びに誘わないで!」は、
彼女の当時の音楽観をよく表しています。
第4話で同じく来夏に、音楽科を辞めた理由を聞かれて言った「私も、天才じゃ
ないから」には諦めの気持ちと、明らかにまひるさんの影を感じます。
しかし、まひるさんのコンドルクインズへの手紙、まひるさんが和奏と作りた
かった未完の曲などを通して、まひるさんの深い愛を再確認する事になります。
周囲の人々の、真っ直ぐな気持ちや言葉も重要でした。
母親の愛は分かっていた事ではあっても、病気の真実を言ってくれなかったと
いう事情も後悔の気持ちと共に和奏の気持ちを微妙なものにさせていた訳です。
ともかく、やっと和奏は母親と和解しました。
まひるさんの言っていた「私にとって歌は愛を伝える言葉だから」も深く理解
したのだと思います。
ここからは、試練を越えて成長した真のヒロイン和奏が、ストーリーの中心に
登場する事になります。
まひるさんの作った未完の曲を完成させる新たな道が始まります。
和奏が作曲に関して参考にした「ネコでもわかる作曲教室」という本の時には
作曲が全く進まないという小ネタも芸が細かいです(笑)。
前半は、無理に明るく振舞っていた和奏ですが、第7話以降の明るい和奏は本当
に何かから解放されたのです。
もちろん、高垣彩陽さんの演技も素晴らしいです。
前半の母親への複雑な気持ちや音楽への想い、そういった微妙な感情をチラリと
見せたり見せなかったりの言葉。第6話での母親への溢れ出る感情表現。
後半のふっ切れたけれど、決してオーバーにならない演技で心の中まで映す様子
は、本当にキャラクターが「生きている」と思いました。
個人的には、この作品は現在までのあやひーの代表作だと思っています。
これ以後のストーリーも、ショウテンジャーなど脇道も充実しつつラストの
白祭に向けて盛り上がるのはご存知の通りです。


和奏が真のヒロインなら、教頭先生は裏のヒロインです。
教頭先生こそ、まひるさんの最大の被害者です(笑)。
まひるさんとは合唱部時代のクラスメートでもあり、親友でした。
まひるさんの磁場のせいで、何故か「自分でも出来る」と思ってしまいました。
白浜坂高校の音楽教師になってからは、名誉ある「合唱部」を「声楽部」と
名称変更するほど、まひるさんへの対抗心を露にしています。
しかし、「金賞」は取っても全国優勝はないようです。
まひるさんを超えられないから、いつも不機嫌そうなんですね。
それでも、いつもまひるさんの事を考えていて、折に触れてその言葉を思い出し
てしまう教頭先生。
重症ですが、救いは意外なところから出現します。
まさかのまひるさんの娘和奏です。
前述のように、まひるさんの呪縛から解放された和奏は作曲について教頭先生
に助言を求めます。教頭先生から出た言葉は、かつてのまひるの言葉です。
これ以後も、和奏との対話の中でまひるさんとも会話する事になります。
そして、音楽の意味についてまひるさんの想いを共有していきます。
そう、教頭先生も解放されたのです。表情もすごく柔らかくなりました。
一時は暗い思いに捉われていた二人。
最終話で、和奏と教頭先生が、まひるさんについて語り合う場面が秀逸です。
思い出の中のまひると直子。それがそのまま和奏と教頭先生に置き変わります。
教頭先生が、実はまひるさんと対話したのだという暗示にもなっています。
穏やかに、楽しそうに、まひるさんの悪口(?)を語り合います。
教頭先生に、ちゃっかり家庭教師を頼む和奏も微笑ましいです。


全員別の道を進むエピローグも印象的です。
来夏は大学で別の興味の対象を見つけたようです。多分、音楽関係かな。
紗羽は楽しそうだけど、日本で騎手になるのは無理なので、競馬に拘るならば
外国での騎手生活という選択しか無い気がします。
大智との仲は進展しそうもないです。
和奏だけは、少し時間が経過しているようです。
教頭先生との会話からは、一浪して芸大声楽科の可能性が強そうです。
本編でも、書店で気にしていたのは芸大の受験参考書でしたからね。
帰宅シーンは色々な可能性が考えられますが、普通に数年後の日常でしょう。
私は一瞬、父親と教頭先生がいるかと思って(つまり二人が結婚!)ドキドキ
しましたが(笑)。
TARI TARI」は、普通に個々のエピソードや5人の青春群像劇として観ても会話
などの出来の良さが光ります。
観る人に色々な想いを惹起させる、これは優れた作品の証明でもあります。
大体、私みたいな人間が好き勝手な記事を書ける事自体が、逆説的にこの作品
の素晴らしさを証明しているのです。
そんな訳で、これがあやひーへの誕生日プレゼントなんですが(安いな)、いつか
読んでくれたら嬉しいです。小躍りして喜びますとも。


終わってしまったのは悲しいけど、記憶に残る名作を作ってくれてありがとう!