ケラスのJ.S.バッハ無伴奏チェロ組曲全曲演奏会(2013-11-16)

2010年3月10日分から、試験的に書いています。
本家(2009年1月5日〜)は、こちらです。
http://stsimon.paslog.jp/


東京オペラシティコンサートホール 14:00開演
1.無伴奏チェロ組曲第1番ト長調 BWV1007
2.無伴奏チェロ組曲第4番変ホ長調 BWV1010
3.無伴奏チェロ組曲第3番ハ長調 BWV1009
4.無伴奏チェロ組曲第5番ハ短調 BWV1011
5.無伴奏チェロ組曲第2番ニ短調 BWV1008
6.無伴奏チェロ組曲第6番ニ長調 BWV1012


ジャン=ギアン・ケラスは1967年モントリオール生まれ。
今年の誕生日で46歳という事になるけど、どう見ても30歳代にしか見えません。
1日で無伴奏チェロ組曲全曲を演奏する人は、あんまりいません。
これで3000円は安すぎます。3階席だったけど、キャパが1600人程度なので表情も
良く見えて大満足でした。ミューレも見習って欲しいなぁ・・・。
演奏も素晴らしいものでした。


無伴奏チェロ組曲は、パヴロ・カザルスの「再発見」以来「チェロの旧約聖書」と
呼ばれる名曲として評価されています。
そして、カザルス、フルニエ、トルトゥリエ、ロストロポーヴィチなどの巨匠は曲
の精神性を表現する重厚な演奏で、これが現在でも主流だと思います。
近年の研究からは、作曲年代はバッハの20代後半から30代前半だと言われています。
なので、精神性を重視しすぎるのも如何なものか、という流れもあります。
そして、1曲の構成がプレリュード+5曲の舞曲なので本来の舞曲の性格を活かす演奏
も多くなっているようです。
まぁ、舞曲の名前が付いてはいますが、本当に全部の曲が踊れるかは疑問があって
単なる当時の形式主義とも考えられます。
ケラスの演奏は、明らかに後者の影響が強くて、非常に個性的です。
でも、その個性がすごく自然に感じられます。
この曲は、速度の指定も無いし、曲想の指示もありません。
バッハの奥さんの筆写譜しか残っていないのですが、あるのは演奏不可能な長大な
スラーのみ(笑)。
そのため演奏者の自由な解釈が可能で、これが大きな罠なのです。
結局、演奏にその人の人間性まで現れてしまうという恐ろしい曲でもあるのです。
ケラスの場合は、研究はしているのでしょうが極端な自己主張が無いように思います。
演奏に力みが無くて、ものすごく自然なのです。身体に曲が染みついている感じ。
音量も大きい方ではないのですが、しなやかで芯の強い音でホールに良く響きます。
テクニックを誇示する訳ではありませんが、凄い技術の持ち主です。
普通、どんな名手でも途中で怪しくなる場面があるのですが、そんな事は一切無し。
「舞曲的」に演奏するという事は、テンポが速くなる場合も多いのです。
それはテクニック的には大変ですが、全く平然と演奏していました。
6番のクーラントのスピード感は凄い。左手がヴァイオリン奏者のように激しく動い
ていましたよ。
譜面台を置かないのも、何気なくやってますが驚きます。
普通は、暗譜していても念のために置く場合が多いのです。
いかに曲が自分の血肉と化しているのかが伺えます。


5番では、バッハ指定のスコルダトゥーラ(変則な調弦)をしていません。
6番では、バッハは5弦のチェロ指定ですが、通常の4弦で演奏していました。
最近は、バッハの指定通りに演奏する人もかなりいます。
しかし、通して聴くと分かりますが、通常の調弦・4弦チェロで演奏した方が曲の
統一感がハッキリと出ます。この方が現代の事情にも合っています。
ケラスは、いつもモダン楽器(エンドピンあり、スチール弦)のようです。
今の時代に、バロックチェロやガット弦でやる意味がよく分かりません。
特にガット弦(羊の腸)なんて時代錯誤じゃないかな。
確かに音は美しいけど、すぐ音程が狂って1曲ごとに調弦では興ざめです。
その時代で一番入手しやすい楽器を使うのが自然ではないでしょうか。
サラッとモダン楽器を使うケラスはカッコいいです。
それにしても、演奏の合間に寝てる観客が多いな(笑)。
確かにチェロの音は非常に心地良いので、分からなくもないですが。
ケラスが演奏しながら客席を見回して(凄い余裕だ)、笑う場面もあり。


ケラスの演奏は、素人がマネ出来るレベルではないけど魅力的です。