高垣彩陽さんが出演したミュージカル『SMOKE』について。

10/4〜10/28まで浅草九劇にて上演されました。


予備知識無しで観た初回は、サスペンス要素もあり、刺激的で楽しめました。
そして何よりも、舞台と客席の異常な近さに驚きました。
近いと言うより、舞台と観客席の境がありません。客席は東西南北の4つのブロック
に分かれていて、トータルで約100席ぐらいです。
しかも舞台の方が客席より低い、極端に言えば「すり鉢状」という感じ。
昔のアングラ劇場(行った事ないけど)をイメージしているのかな。


さて、ミュージカルの内容ですが、公式サイトから引用すると
「天才詩人と言われながら、27歳の若さで、異国の魔都・東京で亡くなった、
 韓国人詩人、李箱(イ・サン)の作品、「烏瞰図 詩第15号」にインスパイア
 されクリエイトされたミュージカル」
という事になります。
高垣彩陽のあしたも晴レルヤ(2018月11月7日配信)#422では、歌詞は、李箱の詩とか
小説から作られていると言う話もありました。


一言で言ってしまうと、「芸術家の内面の葛藤を描いたミュージカル」という、割と
エンタメにしにくいテーマを扱っています。
そして、その具体的な表現として、内面を擬人化するというアイデアを使っていて、
これが成功していると思いました。
公式サイトにある“鏡の中をのぞき込んだら、自分の「こころ」だった“というのが
言い得て妙です。


配役は
超(チョ)=日野真一郎・木暮真一郎(Wキャスト)
海(ヘ)=大山真志
紅(ホン)=高垣彩陽池田有希子(Wキャスト)
つまり、登場人物は3人だけです。
私が一番最初に観劇したのは、木暮・大山・高垣の回でした。
サイトやポスターの表記順や木暮さんのイケメンぶりを見て、てっきり超が主役だと
思ってしまいました。
ところが、開始早々に超がいなくなり、海と紅の長い場面になりました。
ここで、あれっ?と思った訳です。
脚本・演出の菅野こうめいさんに騙されましたよ(笑)。


実在の人物(詩人)は、海のみで超と紅は、詩人の内面が擬人化されたものでした。
超は、詩人の分身的な存在であり、怒りや悩みや直接的な感情を担っていた印象です。
それに対して紅は、もっと深層の懐かしさや優しさ母性まで含めた複雑な感情の印象
でした。時には激しく海を叱咤・鼓舞するという振幅の大きさも持っています。


詩人は、実際には、その詩は当時としては前衛的で、一般大衆に全く理解されず、また
その内容が危険な思想を含んでいる疑いで、日本の警察(神田署)に留置されており、
絶望的な状況です。更に当時は朝鮮は日本の植民地支配下にあり、母国語の使用も禁じ
られていて、しかも結核を病んでいます。客観的には、全く救いがありません。
劇中で「言葉を奪われ」というセリフがありましたが、植民地支配の話とかはあんまり
出てこないで、詩人の創作者としての苦悩を前面に出しています。
このあたりのサジ加減は上手かったと思います。


役者さんは熱演でした。
もちろん、あやひー目的だったのは否定しませんが、他の役者さんの力量も大したもの
だと思いました。
超役のお二人は、まぁ似た印象(失礼)のイケメンですが、テノール歌手としても活動して
いる日野さんのセリフ声は、あんまり響きが通っていなかったのは意外でした。
歌とセリフでは、発声方法が全然違うという事でしょうか。
あやひーみたいに、抜群の歌声とよく通るシャープな滑舌・セリフが両立しているのを
聴きなれていると、ついそれが当たり前に思ってしまいますが、全然当たり前じゃなかっ
たのね(笑)。


海は、結核患者なのに演じる大山さんは血色がよくて体格も立派(婉曲表現)なのには、
正直、違和感がありましたが、終ってみると悲劇性を緩和する役割もあったのかな、と
思い直しました。これも菅野こうめいさんの深謀かな。
ただ、あの汗の量は不自然だなぁ。役者は外見も含めての役作りが必要だと思います。
ボクサー役がボクサー体型を作る、までとは言いませんが、結核患者の役作りとしては
もう少し考慮されてもいいんじゃないかと。
海だけはシングルキャストで全部に出演という大変さでした。
ちょっとタイプの違うWキャストも見たかった気がします。
一体、どんな化学反応が起きたのか・・・。


一人で数多く演じていると、客席の反応に慣れて演技が大げさにエスカレートしがち
ですが、それが全く無かったのは、とても良かった点です。
熱量のある舞台なのに、千穐楽まで抑制が利いていて、凄いと思いました。
これは他の役者さんにも共通しますが。


鏡(実在・エアー)を使った演出も面白かったです。
実在の人物と擬人化された人物が、間に鏡があるかのように対照的に動いたり歌ったり
TARI TARI状態が印象的でした。
2回目の観劇で気付いたのが、最初の方で超が詩を書くシーン。
左手で縦書きですが、右利きを鏡に映した書き方でした。
行の書き方もそうなっていました。
1回観て、内容が分かったので気付きました。
複数回観ていると、色々な発見がありますね。


やっぱり、あやひーを間近で拝見出来たのは、予想外の幸運でした。
1回目の観劇時は、目の前20cmのベッドに横たわって寝ていました。
その呼吸する身体を、じっーと見つめてました(笑)。ちょっとヤバかったです。
ある回では、ベッドから立ち上がる時にスカートがフワッと広がり、真正面から見て
いたので・・・。ちょっとヤバ(以下略)。


母性的な表情から、険しい表情、ちょっと狂気を帯びた表情など、振幅の大きい役柄
でしたが、そういう役はベラボーに上手いです。
演劇的なミュージカルなので、歌は若干少なめですが、あんなに至近距離であやひー
の歌を聴けるとは。
こんな機会は、この『SMOKE』を浅草九劇で再演するまでは無いのかな。
ならば、是非再演を希望します(笑)。


ラストナンバーの「私はただの芸術家」と歌う歌は、未来への少しだけ(あるかも知れ
ない)希望を歌っていて、とても印象的だし、気分が高揚します。
この舞台が映像化されないのは残念ですが、CD化ぐらいはして欲しいです。


あやひーは今年、『ひめゆり』『SMOKE』と凄いミュージカル出演だったなぁ。