渡辺明棋王の『頭脳勝負―将棋の世界』を読みました。

2010年3月10日分から、試験的に書いています。
本家(2009年1月5日〜)は、こちらです。
http://stsimon.seesaa.net/


2007年に、ちくま新書として刊行された『頭脳勝負―将棋の世界』に加筆・修正
を加えた「増補版」が本書です。
2018年9月10日に、ちくま文庫で発行されました。


前書は読んでませんが、本書は大変面白かったです。
将棋と言うゲームの説明、将棋界のシステム、棋士の日常、コンピュータ将棋、
自分の対局解説など、細かく説明しています。


この本の魅力は、渡辺明棋王の明快な語り口です。
前にも書きましたが、渡辺棋王は超合理主義者です。
なので、かなり赤裸々な描写もあっさりと書いています。
例えば発見した「新手」を仲間との研究会で公開しないで隠した話です。
これは、その仲間から直後にあるタイトル戦の対局相手に漏れる可能性を考慮した
結果です。
「研究仲間には申し訳ないと思いましたが、自分の対局を優先するのは仕方がない
ことでしょう」
当然だとは思いますが、普通はこんな内幕話は書かないと思います(笑)。


2008年の竜王戦は、渡辺竜王が3連敗から4連勝で防衛という、史上初の快挙でした
が、その第4戦の解説も面白かったです。
ずっと、自分が不利だと思い込んでいたとは意外でした。
普通、そういう心理状態だと勝てないものですが、そのあたりの機微も含めて、
棋士の心理が非常によく描かれています。


ところで、対局ではポーカーフェイスの棋士が多いです(戦術的にも妥当)が、
何故か渡辺棋王は、非常に分かりやすいです。
自分の形勢が悪いと思った時は、がっくり肩を落としたり、天井を見上げたり、
ネットやテレビで観戦していても、ハッキリと分かります(笑)。
この点は、合理主義者らしくないけど、基本的にウソを付けない性格なんだと
思います。
先日のNHK杯戦での、三枚堂六段との対局もそうだったなぁ。
いずれにしても、この本は将棋知識の有無に関わらず楽しめます。
お薦めですよ。


因みに表紙の似顔絵(渡辺明棋王)は、渡辺棋王の奥さんによるものです。