ミュージカル『ひめゆり』を観劇して思うこと。

会場 THEATRE1010 2018年7月12日〜17日(全8公演)
公開ゲネプロ2公演があったので、正確には10公演になるのかな。
私は初日と大千穐楽を含む5公演を観劇しました。





もちろん、ファンである高垣彩陽さんが出演(初主演)というのが最大の理由です。
このブログの読者なら分かってると思いますが(笑)。
タイトルから、沖縄戦の「ひめゆり学徒」の悲劇を扱っているのは分かりました。
だから当然、相当重い話になるのも予想出来ました。
高垣彩陽という役者さんが、役にのめり込むタイプ、「役に成り切るタイプ」と
いうのも知っているので、心配もありました。
今まで、主役でこんな役はありませんでしたからね。


そして初日でした。
非常に良い作品だと思いました。
初演から22年という事で、よく練り上げられていて完成度が高いと思いました。
場面転換が多いのですが、非常にスピーディーでした。
キャストの訓練度も高いと思ったのは、群像劇にも関わらず、無駄な動きや表情が
無かったと思えた点です。


ツイッターでも初日の印象を「悲惨な話ですが、後味は悪くない」と書きました。
その理由を少し考えてみました。
①病院脱出後は、キミ・檜山上等兵、ふみ・ルリ、はる・かな・みさの3組の
 エピソードの比重が大きいのですが、この学徒6人は生き残りました。
 やはり観客は、登場頻度の多い人物に感情移入すると思います。
 その人達が生き残った意味は大きいです。


②はる・かな・みさ3人組のユーモア。
 3人組の内容も、常に死の影があり明るいとは言えませんが、他のエピソード
 よりは比較の問題で少しだけ、観客の気分を和らげてくれました。
 動きもコミカルでした。
 役者さんのブログやツイッーターを見ると、そのコミカルの程度をどの程度に
 するか、それぞれの考えがあるみたいで、納得するとともに演技とは奥深いもの
 だと改めて思いました。
 

③キミの人物像が良かった。
 家族や仲間思いで無邪気。だけど、他の学徒達より少しだけ心が強かったという
 印象です。もちろん、ジャンヌダルクみたいなヒロインでは、荒唐無稽になって
 しまいます。その心の変化と行動が、実にリアリティを感じさせました。
 高垣彩陽さんの見た目や演技・歌が、ドンピシャだったと思います。
 一生懸命さ、必死さ、そして強さ、その事が小柄なので一層際立ちます。
 私は高垣さんの大ファンなので、見方に強いバイアスが掛かっているのは認め
 ますが(笑)。
 それでも、高垣さんの事を全く知らない『ひめゆり』リピーターの感想でも
 「今まで1番好きなキミちゃん」「歴代最高のキミちゃん」というのを見つけて
 喜んでいました。


○役者さん達の演技や歌が素晴らしかった。
初日は、高垣彩陽さん中心に観てました。えー、ファンなので(笑)。
席も真ん中ぐらいなので、双眼鏡で表情を追っていました。
そして、上原婦長(沼尾みゆき)の登場で、雰囲気がガラッと変わりました。
素晴らしい歌唱と佇まいの美しさ。明らかに天使的な扱いに見えました。


高垣さんとのデュエットも印象的でした。
高垣さんの感情が入って(あるいは入り過ぎて)泣きながらの歌唱でしたが、気付い
たら、沼尾さんも泣いていました。
2日目以降は、高垣さんも気持ちをコントロールして、初日ほどの涙は無かったし
沼尾さんは、高垣さんにつられませんでした(笑)。
初日は3人組が出てきても、「ここはユーモアなのか」と戸惑いました。
2日目以降は、癒しの時間になりました。


2日目以降は、檜山上等兵(松原剛志)や滝軍曹(今拓哉)にも注意が向いていきました。
最初の病院のシーンでの、キミの驚愕と恐怖に目を見開いた表情が印象的でした。
檜山が、日本軍が他国で行った残虐行為を語ったのも良かったです。
そう、沖縄戦だけ見れば民衆の犠牲が目立ちますが、そういう別の面にも触れたの
は作品に深さを与えていると思います。そんな檜山に対して
キミは「もうじき終るわ、日本の勝利で!」と捨てゼリフを残して走り去ります。
まだ軍国少女です。
この直後の、松原さんの絶望したような何とも言えない表情が、とても印象的です。


キミと檜山上等兵のシーン。
これは何回か観ているうちに、不謹慎にも美しいラブシーンに見えてきました。
松原さんの気持ちの入った演技に、全身全霊の演技で応える高垣さんも素晴らしい。


洞窟のシーン。
亡くなった檜山や瀕死の上原婦長に「生きること」を求められたキミ。
悲惨な現実に、遂に生きること(降伏)を決めるキミ。
ここで、キミが必死の勇気で滝軍曹に立ち向かいます。
この作品のヒロインが、初めてその姿を見せた場面でもあります。
結局、滝軍曹に反抗したのはキミだけですからね。
上原婦長は立派だけど、兵士の傷を治すのは、また戦場に行かせる事でもある。
つまり、上原婦長は滝軍曹側とも言えます。


しかし、瀕死の上原婦長はキミに「(洞窟から)出て行きなさい」と言います。
出て行く、という事は生きなさい(降伏しなさい)という意味です。
ここで上原婦長は、はっきりキミの側に立ちました。
だから、滝軍曹を撃つ行為は必然なのです。
このあたりのドラマチックな展開も、よく出来ていると思いました。


滝軍曹役の今拓哉さんは、パンフレットを読むと本当に滝軍曹とは正反対の方の
ようです。滝軍曹の人間的な場面は良かったですが、演じる方の葛藤もかなり
あったのではないかと思います。役者とは大変な仕事です。


その点では、高垣さんは自分に似た部分の多いキミ役というのは、比較的演じ
やすかった気はします。迫真の演技は、本当に感動的でした。
場面場面での一瞬の表情、それが見事にキミの心情を映し出しています。
色んな場面で、最初は普通、やがて泣くというのが多かったのですが、それを
本当に途中から泣くというのを、ごく自然にやっていました。
これは、キミの感情に共鳴しないと不可能だと思います。
涙を流す技術もあるとは思いますが(笑)。
高垣ファンなら『消しゴム』の演技の壮絶な泣きを知っているので、驚きません。
高垣さんは、立派に「キミという人物を生きていた」のは間違いありません。
歌唱も、透明感と繊細さは女子学生の歌にピッタリでした。


ひめゆり』カンパニーの皆様、お疲れ様でした。来年、またお会いしましょう!