舞台でのアドリブ演技について考える。

2010年3月10日分から、試験的に書いています。
本家(2009年1月5日〜)は、こちらです。
http://stsimon.seesaa.net/


特に「AD-LIVE 2016」第5巻とは関係ないです(笑)。
あれは、アドリブ自体をネタにしたお芝居なのです。
単に「アドリブ演技」という事で思い出すのが、TVアニメ「かんなぎ」(2008年)です。
DVDのオーディオコメンタリーで面白い話がありました。
酔っ払い役の若本規夫さんが、ざんげちゃん役の花澤香菜さんと会話する場面です。


若本さんのセリフについて、脚本の倉田英之さんや声優さんの発言があって
倉田「台本あるんですけど、一語たりとも残っていない」
戸松遥「あははははははっ!」
下野紘「全部違いますもんね(笑)」
若本さんが勝手にセリフを喋ったようです。つまり、完全にアドリブです。
もちろん、花澤さんのセリフはそのままだったと思われます。変えたら、ストーリー
が変わってしまう恐れがありますからね。
若本さんも、花澤さんのセリフが変更無しになるように配慮しているのです。
流石は大御所声優・若本さんなので誰も文句を言えなかった面も(笑)。


映画やTVドラマの場合はどうでしょうか。
アドリブをよく入れる役者さんの名前は聞きます。舞台出身者が多い印象はします。
それでも、演出家や監督が不適当と判断すれば、当然撮り直しになるでしょう。
アニメにしても、映画やTVドラマにしても、その世界観からハズレたら不自然ですし
認められないのは予想出来ます。
つまり、通常はアドリブがあったとしても、視聴者には分からない訳です。
分かるのは、「かんなぎ」のように種明かしされた場合のみです。


さて、ここからが本題です(笑)。
舞台の場合はどうでしょうか。
映画やTVと決定的に違うのは、撮り直しが出来ない点です。
『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』の場合ですが、私が観たの3回の中でも
アドリブは、いくつかありました。
特にスヌーピー役の中川晃教さんが関係しているものが多かったと思います。
中川さんは、ミュージカル界のスターで色々な賞を受賞しています。
つまり、中川さんは出演者の中で最年長ではありませんが、格上的な存在である事は
間違いありません。


中川さんの役は、それでなくても自由度が高いのです(笑)。
だから、アドリブが徐々にエスカレートしていった面もあるでしょう。
止められる人もいなかったと思います。
東京公演だけでも22回あったのですから、色々とアドリブも入れたくなるでしょう。
自分達が楽しむのと同時に、お客さんを楽しませたかった気持ちは分かります。
なんだか、やりたい放題の感はありましたが。


でも、アドリブだと分かるのは、リピーターのお客さんだけです。
前回と比較して、初めてその演技の違いが認識出来るからです。
初めて観た人には、台本通りなのか、アドリブなのかは分かりようがないのです。
それはアドリブがちゃんと機能していた場合ですが。


それでは、アドリブが機能しなかったらどうなるのか。
私は舞台というのは、演じる側からは「1回だけ観る観客のため」が前提だと思います。
貴重な時間とお金を使ってくれる観客、リピーターになる人は決して多数派ではない。
だから、1回しか観ない観客を失望させて欲しくないのです。
お芝居の内容とか役者の演技とか、色々な評価ポイントはあると思います。
だけど、役者が舞台の上でそのお芝居の世界感から離れた「素」の自分に戻ってしまった
ならば、それは観客にとって興ざめというか没入感をそがれて楽しくありません。


『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』の東京千穐楽でした。
「ベースボール・ゲーム」の場面。
スヌーピーがルーシーの左腕を噛みました。これは、中川さんのアドリブでした。
私が観た前2回には無かったシーンです。
噛まれたルーシーというか、高垣さんはかなり驚きました。そりゃそうです。
信じられないという表情というか動作で、噛まれた個所と周りの人(誰かは覚えてません)
を交互に何回も見ていました。
その動きはルーシー的と言えなくもなかったです。笑った観客はリピーターだけでしょう。
その後、何か言いながら、腕についたヨダレをチャーリーの服で拭くというアドリブで
切り抜けました。実際問題としても、ヨダレは我慢出来なかったようです(笑)。


ただ、そのセリフは最後列の私には、何を言っているのか聞きとれませんでした。
あやひーの通常のセリフなら、当然聞こえる訳で、観客に届かないセリフは、厳しい言い方
をすれば、只の独り言です。
あやひーは、動揺して一瞬だけ素に戻ったのだと思いました。
この舞台の観客は、舞台を見慣れた人が多い印象なので、あの場面の意味を理解した人も
かなりいたのではないでしょうか。
それが、あやひーの評価に影響しない事を祈ります。


もちろん、私はあやひーを責めていませんよ。
悪いのは、セクハラまがいのアドリブを仕掛けた中川さんです。
アドリブがエスカレートしてやり過ぎたと思います。
ちゃんと相手の反応を予測して、芝居に影響の無い範囲でやるべきなのです。
それくらいの実力のある人なのですから。
あの時あやひーは「何すんのよ!このバカ犬!」と叫べは、よりルーシー的だったかも。


舞台でのアドリブって、下手をすると役者と観客(リピーター)の慣れ合いに堕すると思う。